記録:2021年5月

 5月の後半頃から残業続きになってしまい更新をサボってしまった。この頃はかろうじていくつかのドラマを視聴していたが結局完走したのは『あのときキスしておけば』だけだった。

 ろくに作品鑑賞出来なかったので、サクッといきます。

 Amazonアソシエイトを導入したのでリンクを貼りますが、お好きな方法で鑑賞してください。

滅多滅多

0522/0530千穐楽

 登場人物は、小学生。それを取り巻く大人たち。そしてこの世のものにあらずの魑魅魍魎!登場人物が言ってることも、やってることも、そして作品の構成自体もまさに滅多滅多(めっためた)!でもなぜか気持ち良い!もっと蹂躙されたい!引き返せないぜボーイズ&ガールズ!「高天原立秋津島小学校」を舞台に繰り広げられる異種混合バトル・ロイヤル!

 初見と二度目に観劇した際に感じたことがまるで違うのに、自分が抱えている切実な部分を勝手に救われた気持ちになった。それだけ心のやわらかい部分に触れてくるという意味では危険な作品でもあり、『改竄・熱海殺人事件』「モンテカルロ・イリュージョン」の初日観劇後以来、人生2度目の「演劇を観たら悪夢を観た」経験をした。

 露悪的なまでに子細を語ることで初めて人と解り合える気がすること、一方で大事に思いを仕舞っておく自由もあること、言って欲しくないことこそ実は最も言われたいことなのではないかということ。現実には存在しないはずの妖怪(ホラー)作品であるにも関わらず、現実のコミュニケーションについて考えたりした。

ミュージカル『スリルミー』オンライン配信上演

0529松岡山﨑回/0529成河福士回/0530田代新納

松岡山崎ペア

 若さと衝動を持て余した犯行という感じで、個人的にはこのペアが一番好きだった。「彼」の“有害な男性性”の感じががたまらなかった。

成河福士ペア

 「私」が「彼」を求めているのに「彼」のことを全然見えてなくて怖かった。

田代新納ペア

 初演キャストの特権とも言えるかもしれないが、技術に裏打ちされた、戯曲からまっとうに『スリル・ミー』をやっているといった印象。興奮した。

『作りたい女と食べたい女』

 真正面からGLですと言い切っているところに好感を持っている。

 食べることは生きることだし、生きることと社会や政治は切り離せないことをきちんと理解している漫画。この漫画が在ることに頼もしさを感じる。 

『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』

 元警察官の作者が描く地方警察署の物語。登場人物の濃いキャラクターと作者の経歴によるリアリティが交錯していて面白い。

 現在放送中のドラマも原作の魅力が活きた良いドラマに仕上がっている。永野芽郁演じる新人警察官川合の奮闘ぶりをみていると、ポメラニアンの赤ちゃんを見ている気持ちになる。

 

「ダ・ウィンチ」2021年6月号 

 魂をゆさぶるやつ、教えてください 嗚呼、このマンガが好きすぎる。 ◎[対談&コラボイラスト] 椎名うみ(『青野くんに触りたいから死にたい』)×野田彩子(『ダブル』)

 『ダブル』読者必読の対談。

 両者とも互い、そして自らや他人に対する解像度が驚くほど高い。『ダブル』や『青野くんに触りたいから死にたい』は、作者の世界生まれた作品なのだろうと感じた(『青野くんに触りたいから死にたい』無料掲載分しか読めていないので今後読みたい)。

 壮烈で苛烈な野田彩子の人間性がありありと見え、そして激しい野田彩子に相対する椎名先生も野田彩子に負けないしなやかさな強さを感じる椎名うみの受け答えが面白かった。

演出家 岡村俊一紀伊國屋ホール 鈴木由美子インタビュー

 『ダブル』作者・野田彩子によるインタビュー記事。

 オタクをしていると「今この瞬間だけは私が一番輝いているな」と感じる瞬間があるが、この記事が公開されたときもそう感じた。

viewer.heros-web.com

 

春、何ものにも負けぬ強い志を持つ木村伝兵衛

 このタイトルで「熱海殺人事件」の記事を書こうと思ったのは2度目。1度目は初めて荒井敦史が木村伝兵衛を務めた昨年の春、3月の終わりのことだ。

 2020年の3月といえば、1月に日本でも初めて感染者が確認された新型コロナウイルスが徐々に国内で広まり、いよいよ東京では本格的な対策が必要なのではないかという雰囲気になった頃。政府による明確な指針や補償の話もないままに演劇やライブなどの公演が中止や延期になるケースが目立つようになった時期だ。

 毎年恒例となっている春の紀伊國屋ホールでの『熱海殺人事件』。昨年はつかこうへい没後10年企画のひとつとして、中屋敷法仁を演出に迎え『改竄・熱海殺人事件』と銘打った作品としてバージョン違いの「ザ・ロンゲストスプリング」と「モンテカルロ・イリュージョン」が二本立てで上演された。

 先んじて初日を迎えた「モンテカルロ・イリュージョン」を観劇するために劇場に足を運んだ時、ロビーはおおよそ公演が行われる劇場とは思えない雰囲気で、座席に座ってもなお上演するのか半信半疑だった。この座組での公演は常に張り詰めた緊張感を持ってコロナ禍の世に届けられたが、紀伊國屋ホールでの千穐楽を迎える前に東京都知事からの週末外出自粛要請を受けて上演は打ち切りとなってしまった。たった1年前のことだが、当時は「コロナ禍」という言葉もなかったと記憶している。

 対して、5日遅れて初日を迎えた荒井敦史主演の「ザ・ロンゲストスプリング」は「モンテカルロ・イリュージョン」が上演された実績があったからか、観客としては危なげなく初日を迎えた印象だった。勿論、その裏では上演にこぎつけるための制作・劇場スタッフによる並々ならぬ努力があったことだろうし、キャスト陣も公演期間中に不安な日々を過ごしたであろうことは想像に難くない。劇場の外では“不要不急”なものに対する自粛を強いる圧力が日毎に増していっていたし、感染者数も増加する一方だったからだ。しかし、そんな中でも最終週の週末に予定されていた1公演が中止になったものの「ザ・ロンゲストスプリング」は運良く平日に予定されていた千穐楽を迎えることが出来た。

 「モンテカルロ・イリュージョン」については初日公演を終えた時点で記事を書いている(春、狂い咲く木村伝兵衛 - 感想文としては満点)のだが、なぜ「ザ・ロンゲストスプリング」の記事を書けないままここまで来てしまったかというと(これは今となっては笑い話として聞いて欲しいのだが)あまりにも初日の出来が酷く、書きあぐねていたからだ。

 荒井に「熱海」に対して思い入れがあり、念願の木村伝兵衛役であったと知ったのはキャスティングが発表されてからしばらく後の公演が始まる前でのタイミングだった。しかしこれを知らずとも「ザ・ロンゲストスプリング」が、彼の炸裂する「熱海愛」を余すことなく感じられる公演であったことは間違いない。ようやく立てた紀伊國屋ホールの板の上の真ん中で、彼は誰の目から見ても明らかなほどに緊張していたからだ。

 幕が開いた初日公演。膝が震え、タバコを持つ手が震える木村伝兵衛部長刑事の姿がそこにはあった。その上、ひどく空回っている様子だった。その様は「このままでは荒井さんが血管ブチ切れて死んだ初めての伝兵衛になってしまう」と心配してしまうほどだ。

 中屋敷の手により“改竄”された「ザ・ロンゲストスプリング」は良く言えば新鮮、悪く言えば(従来の「熱海」にはあった)盛り上がりに欠けた造りに仕上げられていた。つまり、“改竄”した熱海はいつものようには盛り上がってくれない。キャストが一新された「熱海」の観客は「熱海」を観慣れた人たちばかりではないからいつものような熱海を期待していないので“改竄”によって生み出された流れに上手く乗れていたのだが、荒井だけはいつも盛り上がるべきシーンで盛り上がらないことに焦り、かつて観客側で感動した「熱海」の感動をなんとか伝えまいと奮闘していたように見えた。演劇は戯曲、演出、舞台芸術に役者、そして観客もすべてひっくるめて作品となる総合芸術であるが、これらのすべてが噛み合わないままラストに縺れ込む形で初日の公演は幕を閉じた。

 初挑戦の「熱海」では“改竄”された戯曲に振り回されっぱなしだった荒井だったが、相性の悪い戯曲をなんとか乗りこなす過程で彼が勝ち得た彼だけの武器がある。それは人間らしい木村伝兵衛像だ。

 「味方良介一強」とも言える時代を経て、ファンから「彼の木村伝兵衛はまるで神のようだ」ともしばしば評された味方良介の次に木村伝兵衛の座を継ぐものとして、彼が果敢に「熱海」に立ち向かうために手にしたのは、神性とは真逆の圧倒的な人間の心根の優しさとこれに起因する不器用な真っ直ぐさだった。

 1年の時が経ち、2021年の「熱海殺人事件」は紀伊國屋ホール改修前の幕引き公演として、紀伊國屋ホールにカムバックした味方良介と荒井敦史の二人体制で『熱海殺人事件 ラストレジェンド〜旋律のダブルスタンバイ〜』として上演された。一年越しの荒井敦史演じる木村伝兵衛部長刑事に前年の頼りのなさはかけらもなく、当時は冗談混じりで言ったかもしれない「公演やりましょうよ。もうミカティ(味方良介)の時代は終わりだよ」(中屋敷法仁×荒井敦史×多和田任益インタビュー 伝説の舞台の令和初上演はあえて改竄してみる、舞台『改竄・熱海殺人事件』 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイスの発言より)は「あながち間違いではなくなったのではないか」と思えるほどに見事な出来だった。

(『熱海殺人事件 ラスト・レジェンド〜旋律のダブルスタンバイ〜』についての記事:『熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ~』感想 - 感想文としては満点

 そして6月。改修を終えた新・紀伊國屋ホールにて『新・熱海殺人事件』が上演された。

 初日公演の開演前には、こけら落とし公演ということでサプライズで北区つかこうへい劇団の二期生吉田智則も駆けつけた。前説の濱田和馬に「改修後こけら落とし公演の初日だというのに風間(杜夫)は、馬場(徹)は、味方(良介)はどうした」と詰められ「それでも幕は上がり『熱海殺人事件』は始まるのだ」と吼える元劇団員の力強さは、改修しても変わらぬ紀伊國屋ホールと『熱海殺人事件』の心のみならず、変わりゆく時代のもの悲しさまでもをわれわれに伝えてくれた。

 「熱海」を観劇しながらいつも感じることがある。「NEW GENERATION」、「CROSS OVER」、「LAST GENERATION」、「改竄」、「ラストレジェンド」。様々なテーマが与えられた「熱海」を観てきたが、それでもこの作品が伝えてくれ、そしてこの先も伝えるべきテーマはいつの時代も変わらないのではないか、ということだ。人間が人間らしく生きるとはどういうことか。どのような生まれであっても、貧富の差があれども、人は人を知り、解ろうとし、前を向いて歩むことが必要であること。これが幸せになるために必要であること。そして人は幸せになるために生まれてきたこと。人間の根源的な営みに寄り添うように様々な立場から語られるからこそ、「熱海」の言葉は誰もの琴線に触れるのだ。

 そして「新」を冠した「熱海」はというと。

 いつもの「熱海」の演出を務める岡村俊一ではなく、『教場』『Dr.コトー診療所』などを演出した実績のある中江功が演出家として迎えられ、演出家が「観客としてこう解釈した」要素が盛り込まれた『新・熱海殺人事件』は「新」と題するほどの真新しいものとはいかずとも「新解釈・熱海殺人事件」と言える仕上がりになっており、ラブストーリーの形に整えられた「ネオ熱海」は、確かに今まで見たことのない「熱海」であった。制作陣、解釈、ストーリーラインさえも変わった「熱海」には、意地でも「熱海」を「熱海」たらしめた荒井敦史の木村伝兵衛の姿があった。

 短い期間で、“改竄”に振り回され、ラストレジェンドと対峙したからこそ練り上げられた荒井敦史の木村伝兵衛像。新たな劇場で、物語の中で、彼こそが「熱海」であった。「熱海」を全力で愛し体現しようとした彼の力強さに後押しされて、この先の新しい紀伊國屋ホールにも、再び春は訪れると信じられた。

 

 

 ▼「熱海」の理解が深まります。おすすめ。

記録:2021年4月

 観れども観れども、未消化のドラマが溜まっていき絶望的な気持ちでいます。みなさんはいかがお過ごしですか。今回はサクッとまとめます。

NON STYLE ネタ10本収録 LIVE

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 YouTube配信用のネタをストイックに披露していくだけなので、取り立てた演出もなく通常のライブとは勝手も雰囲気も違うライブ(らしい)。

 合間に素の2人が話したり、お客さんのトイレ待ちをしてみたり……新鮮でした。客のトイレ待ちをする石田明紀伊國屋でも観たので3ヶ月ぶり。

舞台『刀剣乱舞』无伝 夕紅の士 -大坂夏の陣-

0411

 鶴丸がとってもかわいい。

 深夜の5時に思いついたみたいな「短パンボーイが海の底でカジキマグロに襲われる……こりゃ面白いぜ!」のノリで作られたシーンとラストシーンにおいてのステアラ版舞台『刀剣乱舞』の1番の功労者豊臣秀頼役 小松準弥の扱いについては正直どうかと思う……。

FICTIONAL STAGE 『亡国のワルツ』

0417夜

 「死んだと見せかけて、死んでませーん!お前を殺す!」を色々な役が色々な論法で繰り返していた。それ以上でも以下でもなく、伝えたいことは伝わるが、作品としては面白くない。

あんさんぶるスターズ!エクストラ・ステージ』~Meteor Lights~

0424昼

 守沢千秋と深海奏汰のイチャラブ物語〜土着信仰を添えて〜だった。

 「流星隊」を守り続ける守沢千秋と旧知の仲の深海奏多の物語に、「あんステ」を守り続けている佐伯亮を同じくサンプラスの井澤巧麻が支える形で出演という文脈が乗っかって大変興味深かった。

 井澤さんは元々器用な役者という印象だったが、深海奏多の声が原作そのもので驚いた。

 

 

‼️お知らせ‼️

 令和の大傑作『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン〜復讐のアバンチュール』のチケットを取りすぎてしまいました。千穐楽もあります。ご入用の方はぜひ当Twitterまでご連絡を!

『改竄・熱海殺人事件』オフィシャルホームページ | 2021年6月公演

↓昨年の感想文

かちん on Twitter: "#改竄・熱海殺人事件 開幕おめでとうございます!今年も大好きな木村伝兵衛部長刑事に会えて嬉しい! ひとまず #モンテカルロ・イリュージョン の初見での感想を。 春、狂い咲く木村伝兵衛 https://t.co/woovZqnoKQ"

記録:2021年3月

 1月にnoteに投稿した記事(綾野剛の演技に感じた「本当」への渇望〜なぜわれわれは『MIU404』に熱狂したのか)がTV Bros. note版 「マイベストカルチャー to 2021」の<銀賞 ドラマ部門賞>を受賞しました。

note.com

 かなりの年月なんらかの文章を書き続けていて、そろそろ何かしらの形で身になっていることを実感できないと困るな、という思いで応募したので結果が出て安心した。

 じつは割と自信を持って投稿したのだけれど、改めて読み返してみると全然伝える意思がまるで感じられないのでまだまだ未熟だなと思ったり。

 『MIU404』の最終話ラストシーンが格別に好きで。

 あれは明確に野木亜紀子からのわたしたちへの祈りであり、同時に共に11回の放送を駆け抜けた視聴者へのプレゼントでもあるから。

 同時に、綾野剛星野源が伊吹藍と志摩一未として積み上げてきたものがあってこそのラストであって、ゆえに『MIU404』においての綾野剛の演技について語るなら欠かせないものでもあるので、それまでの10回分の積み上げのない人たちにあのプレゼントをどのように伝えようか……と迷って、結局は曖昧な表現になってしまったなあと反省している。自分の中にある心象風景に捉われすぎずに書けきれるように精進したい。

 裏話としては、わたしにとっては2020年のエンタテイメントは『改竄・熱海殺人事件』「モンテカルロ・イリュージョン」なしには語れないので、これをテーマにしようか迷ったのだけれど、TV Bros.を配信している東京ニュース通信社は『MIU404』公式メモリアルブックを発売している会社なので、「盛り上がりの一助になればな……」と思い『MIU404』をテーマに決めた。なれたでしょうか。

 

いとしの儚-Dearest Hakana-

 0306夜

 鬼が墓場の死体を集めて作り上げた絶世の美女・儚を手に入れた博打打ちの鈴次郎と作られてから100日間経たずに女として抱かれると水になってしまう儚の物語。

 やたらと健気に男(鈴次郎)に尽くす女とぞんざいに扱う男のストーリーは正直今見るとキツいものがあるのだけれど、接触が憚られる時代に「触れたいけど触れられない」物語として世に送り出す手腕は見事。

 顔も体躯も恵まれていて、演技も上手いのに、何故かちょっとひねてて面倒な人間くさいあっくんが大好きなので、好きな荒井敦史が見られた。ザ・スズナリサイズじゃないが。質量が。

STAGE GATE VRシアター『Equal-イコール-』染谷俊之×細貝圭

 天地創造をモチーフに、7日間のテオとニコラのやりとりで魅せる作品。ダブルキャストで、日毎にキャストがテオとニコラを行ったり来たりするのだが、これが効果的で面白い。

 今年に入ってずっと面白い作品の根底には普遍のがあるのだよな……ということを考えていて、様々な作品を観ていることは、創作するにしても、鑑賞するにしてと、今後かなりキーになるのだろうなと思っているし出来るだけ多くを自分の中に取り込むのが今年の自分に課している課題のひとつでもある。

「NAOYA IWAKI Birthday Party 2020」第1部

 やさしい世界…………

すばらしき世界

 『ヤクザと家族 The Family』の副読本として鑑賞したのだが、この2作を繋ぐ北村有起哉という俳優が素晴らしい。

 俳優を追い掛けていると、まれに不思議な縁を感じる事象を目の当たりにすることがあって、「これが楽しくてこういうことをやっていたのだよなあ……」と思える。そして、こういう縁を繋げることができることこそが俳優の力量であり、かつ彼らが持つ神性でもある。『俺の家の話』に“役者の力で亡霊を浮き上がらせると。それが能だと。”という台詞があったが、能に限らず、俳優にはどこか役と肉体との繋がりの深さゆえにいつしか人ならざる力が働く瞬間があると思う。

 『ヤクザと家族 The Family』と『すばらしき世界』は、偶然同時期に放映されているだけのはずなのに、実に配役が絶妙。『すばらしき世界』の世界に井口久俊がいたこと。そして『ヤクザと家族 The Family』の山本賢治が福祉に頼ら(れ)ずヤクザの世界に入ってしまったこと。開かれた入り口にどちらも彼がいたこと。あまりにも出来すぎている。

 「ヤクザと家族」は藤井道人あるいは綾野剛の弱者へ向けるまなざしのあたたかさの話でもあるが、逆に『すばらしき世界』作中に登場した震災以降に夜の仕事に就き子と離れざるを得ない生活を送っている風俗嬢と孤独に抗いヤクザになってしまった三上の交流には弱者ではない者たちへの西川美和監督のまなざしが宿っているように思える。

 「少なくとも掬い上げてやらねばならなかった」と表現できる存在の風俗嬢と三上を並べることで、では、三上のことをどこまで自己責任とジャッジするか、掬い上げるべきと考えられるか?を問い掛けられていたのではないだろうか。

副読本:絶対忘れられない…私が警察から「前科7犯の元暴力団員」を引き取った日のこと(田中 紀子) | 現代ビジネス | 講談社

ヤクザと家族 The Family

 綾野剛、愛される才能があるというよりかは愛してくれと訴える才能がある。

 前回より北村有起哉に注目して観ていたので、中村がかなり当て馬感が強くて、こちらを切なくさせる物語として観てしまった。ラストを書き換えさせるほどのストロングさが愛を勝ち得てしまうからね…………。全力で愛されにきている綾野剛の肉体を持つ山本賢治が勝ってしまうんだよなあ。

映画『同級生』

 プロフェッショナル 仕事の流儀庵野秀明スペシャル」での庵野秀明の言葉「アングルと編集が良ければアニメーションは止めでも大丈夫」を思い出した。が、声優の演技も素晴らしいために成り立っているアニメだった。原作の美しい雰囲気を残す形の仕上がり。

3Bの恋人

 逆ハーものって一昔前のブームで、もう流行らない気がしていたのだが、特殊なマンガ的設定の中で「ふつうの」女性を演じ切ったヒロイン・馬場ふみかは素晴らしかった。いい俳優なので、『DIVE!!』も楽しみにしている。

 そして同じく流行っていないはずの「ツンデレイケメン」の王道を違和感なく突き進んだ桜田通はお見事と言うほかない。

天国と地獄〜サイコな二人〜

 日高と彩子のような関係性を「愛し合っている」以外の言葉で表したい。

俺の家の話

 味方良介出演『ドリームチーム』と『桶狭間織田信長 覇王の誕生〜』の2作と見事に放送時間が被っていたので、後から一気見した。1話から怒涛のうまさで引き込まれた。

 認知症テストでの学習障害の息子とボケかけ老人の対比。後妻業の女と疑われる女への息子の「今笑っただろ。旦那がボケて嬉しいか?」はフレーム外で。儲からない伝統芸能従事者の「寿一っちゃんもやんない!?今紹介すると5000円もらえるんだよね」というデリバリーのバイトの誘い文句。全部凄まじい角度。

 「そんなにアッサリ死ぬヤツがいるかよ!?」って思ったけど、でも、なんかそういうものだよなあという納得感もあり。その最期に美しい花を供えられたのではないだろうか。

 それにしても、クドカンに「見逃してない?伏線!回収して!伏線!」って台詞を出されるとめちゃくちゃ腹が立つ。本当にその通りなので。

桶狭間織田信長 覇王の誕生~

 馬場徹を味方良介が刺す展開はずるすぎるだろう。RUP文脈の大河ドラマかと思った。

 エンディングテーマを担当する宮本浩次が全部かっさらっていったし、そのおかげでなんだか面白いドラマを観た気になってしまい、更にずるかった。

PUIPUIモルカー

 何気に毎週真面目に観ていた。

 第10話「ヒーローになりたい」が大好きで、この回だけ録画を残している。

 この回は望めば誰だって誰かのヒーローにはなれる話だ。この明確なメッセージの力強さはどれだけの人を救うだろう。少なくとも私にとっては希望だった。

『潜熱』1巻

 Kindleで無料だったので読んだが、のっぴきならない事情がない限りはもう2度と読みたくない。

 『ダブル』をこんなに楽しんでいるのは宝田多家良も鴨島友仁も男性であるからであることを突きつけられたようだった。野田彩子が女性を描くことが怖しい。筆者の眼差しから逃れ続けていたい。

 3月5日にKing Gnu『泡』のMVが公開されたが、まだ視聴出来ていないので4月中には……。osrin監督は森山未來の大ファンらしく、かなり気合が入ってそうなので楽しみ。