感想文としては満点

演劇と言葉あそび

剣劇「三國志演技〜孫呉」感想

2024年4月7日夜公演観劇

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早乙女友貴が電話番号を変えたら舞い込んできた仕事シリーズのうちのひとつ*1剣劇三國志演技〜孫呉」を観た。

何故か私の周囲には荒牧慶彦に興味のある人が多い。そして梅津瑞樹を興味深く眺めている人も多い(これは私もだが)。加えて何故か私の周囲には早乙女御兄弟に興味のある人も多い(これにはある程度の因果関係はある)。

そのため、解禁時に多分これは公演期間中はこの作品の話題でXのタイムラインは持ちきりになるかもしれないと思い、私も野次馬しに行ってみることにした。久しぶりに廣野凌大の芝居も観たかったことですし。

という経緯があり、荒牧慶彦に興味なし、三國志の素養なし、なんなら世界史苦手……という最悪のステータスにも関わらず明治座へのチケットを取った次第である。

事前に荒牧慶彦の「ゆるまきば」で三國志講座を流し見したが、世界史が苦手すぎて結局全然話が入ってこなかった。無念。

物語は蜀・魏・呉の3つに分かれた国が鎬を削る時代の呉の国にフォーカスしたもの。戦の中で皇帝の象徴である玉璽を手に入れた孫堅松本利夫)は初出陣となる息子の孫策(梅津瑞樹)を連れて劉表(冨田昌則)の軍に戦いを挑むが、幻術を使うという黄祖(玉城裕規)の手によって命を落とす。孫策は幼馴染の親友・周瑜荒牧慶彦)を軍師とし、親の仇を討つことを誓う。

三國志ファンが満足かはわからないけれど、良質な歴史エンタメだったんではないだろうか。

マクベス』あるいは『ハムレット』のようなシェイクスピア悲劇の要素をベースに、ブロマンス的な男性ふたりの友情モノでもあり、ついでに言うと『走れメロス』のような要素もあった。非常に古典演劇的な台詞を、小中劇場が馴染むような演劇的な手法をとりながら展開していき、なおかつ明治座の舞台機構もふんだんに使いながら派手な殺陣ショーを展開する。贅沢な作品だった。

まず心惹かれるのは梅津の芝居。先述の通り、(何故か)「ド真ん中演劇」なシェイクスピア芝居の味がする作品で、作品の性質と俳優としての彼の性質に非常にマッチしていて観ていて心地よさすら感じた。彼のコミカルな雰囲気の芝居も好きなのだが、今回はコミカルに振りすぎていない印象のシリアスな芝居とエンタメ的な軽い芝居の塩梅が絶妙で、これまで観てきた出演作の中でも1、2を争うくらいに良い芝居だったように思う。

それから荒牧の顔。これは本当にこれはふざけて言ってるんじゃなく、いわゆるミーム的な「顔がいい」でもなく。いや、そういう意味合いになるのか? とにかく顔が良かった。

私はこれまで生きてきた中で微塵も荒牧慶彦の造形やその他諸々すべてに興味を持ってこなかったし今も興味がないが、役名が出て決めの顔をする場面で(2.5次元舞台だと立ち絵を再現するような場面だろう)とびきり見得が切れている姿そして顔を見て「荒牧慶彦の顔がかわいい」とはこういうことかと心底納得した。これが“2.5次元界のトップランナー”の実力なんだろう。

物語の序盤、戦によって家族を失った復讐心に囚われた黄祖孫堅を惨殺するが、この役が妖しい人斬りをやらせたらピカイチの玉城にあてられていたのも良かった。というか、あらすじを読まずとも「わかる」レベルでこのような役を期待していたので期待していたので、息絶える間際の孫堅に「この……残酷狐ッ!」と罵られていた時には非常に興奮した。

復讐心から劉表の嗜めにも耳を貸さず戦場で残酷な殺しを繰り返そうとする黄祖は自身も孫策に復讐心を燃やされていることを感じ、やがて連鎖する復讐の虚しさに気付いていくわけだが、「残酷狐」っぷりを期待していたので残念な反面、ホンとしては非常に面白かった。残酷なまま殺されず、より良い方向へ向かおうとする役はなんだか新鮮な気がした。これが後述する物語の顛末の「読後感の良さ」をより引き立てていて、上手いなあと思う。

かつての黄祖と同じ道を辿るように復讐心の強さから狂い始める。父の幻覚に怯えながら気性が荒くなり、戦を渇望するようになる孫策。その一方で孫策の弟である孫権(廣野)は、幼い故に構ってはもらえなかった父への寂しい思いとそれでも残る憧憬を抱えたまま幼くして喪った現実から逃避するように酒をくすねて飲む。

少年期のいじらしい愛らしさを表現する廣野が可愛い。

抱え切れない現実に対して何も考えたくないと言いながらも、抜群の強さを持つ太史慈早乙女友貴)を慕う姿も可愛い。

2人は役者の身体能力的にも良い相性で、このコンビはなんというかかなり可愛い。

何故かひとりだけロックTシャツをインナーに仕込んだ現代アレンジ衣装だったのも可愛い。

もう可愛いしか言えない。

兄の狂気が印象的な物語ではあるが、思い返すと弟もまた太史慈を通して強かった父の影を追うように強さに惹かれ、強く在ろうとしていたのだと気付くと胸がキュッとなり、より愛おしい。

短剣二刀流使いなのも本当に可愛くて……可愛い…………。

躁と鬱を行ったり来たりしながら幻覚を見る兄と未成年(という概念があるのかはわからないが)でアルコール中毒寸前まで行った弟と見ると、兄弟揃ってメンタルヘルスに問題を抱えすぎており、毒親育ちと戦争はよくないということがよくわかる。

物語が進むにつれ、孫策に対して初めは強い父を追いかけ自身が本来持つ強さを発揮しているように感じていた周瑜もやがてその狂気に気が付く。

ここでも、やはり梅津の演技は素晴らしい。強く厳しかった父への怯えと周瑜への虚勢が入り混じる躁と鬱が入れ替わり立ち替わりに波が満ちては引いていくような表現は本当に見事としか言いようがない。

結末としては、無茶な敵討ちを決行した孫策は死に、周瑜孫策の意志を継いで(いるかのように見せかけて)軍も何もかも孫権に引き継がれ終幕する。

爽やかささえあり、少年漫画の読後感を思わせた。

個人的にはこの結末にこそ企画の意図というか妙があったというか、面白い構成だったなと感じた。

私は結構荒牧慶彦プレイングマネージャー的な立ち位置でプロデューサー業に勤しむのってどうしてなんだろうと思っていたのだが、完全にメタ目線ではあるのだが「こういうことか」と理解出来たような気がしたのだ。

実力のある諸先輩方や仲間たちの力を借りつつ、自分は頭脳として(裏方的に)立ち回り、(今やテニミュだけが登竜門ではないことは理解しているが、それでも出自が特殊な)梅津をW主演として起用しながらもテニミュ3rd出身の廣野へ世代を継承していく。視覚からのメタ的な画が何よりも私を納得させてくれたのだった。

どこまで意図したところかは不明だが、個人的な受け取り方としてこれ以上ない形で受け取れたかなと思う。ノイズといわれればノイズなのかもしれないが。

そしてお待ちかねの第二部。いやあ、楽しかった。

本編にない組み合わせでの対戦の数々。あるはずのない会話。「夢」のような光景。私はこの感覚を知っている。剣劇三國志演技〜孫呉」版 Dream Liveだ。

程普(富田翔)に言ったほうがいいのかもしれない。「眼鏡男子、最高!」と。

やはり一番楽しいのは早乙女友貴VS廣野凌太。良い。笑っちゃってるゆっくんさん。楽しいね。

それから大乱闘スマッシュブラザーズよりよっぽど大乱闘している「擬似ソイヤソイヤ(と私は呼んでいる)」。舞台『刀剣乱舞』のIHIステージアラウンド東京での公演で観た全員出演で回る盆(ステアラでは舞台そのもの)のような演出。

今回舞台監督に元ステージアラウンドスーパーバイザーが入っているからこの演出があったのだろうか。

情報過多で、かつ荒牧梅津が大変そうなのが良かった。下手で余裕そうな廣野玉城が若干サボってるのも含めて。

全然期待してなかったのにこんなに楽しんでしまって申し訳ないくらいに楽しかった。また機会があれば続編も……と思うが、次は早乙女太一くらい引っ張ってこれないと楽しめない気がするので、権力者の方には引き続き権力をたくわえていただきたく。またいつか会いましょう。

 

 

 



 

*1:真偽不明