感想文としては満点

演劇と言葉あそび

ふつうにとくべつに

 世界で一番好きな女の子が芸能界を引退するそうです。ただただ、元気で幸せでいてねと思います。

 彼女を思う時、彼女の体調が安定しなかった時期にはステージに立ってる姿を目に入れただけで嬉しくて嬉しくておいおいと泣いてたことをよく思い出します。同時に、他人を本気で思いやるような あの尊い感情をもう私は今後持てない気がするなあとも考えます。

 個人的な話ですが、最近職場に行くのがつらいんですよね。そんな中でも離れた人の幸せを願える余裕やそのような思いが生まれることが自分にあるのだと嬉しいです。

 Juice=Juice 1stアルバムに収録された『生まれたてのBaby Love』という楽曲の歌い出しが彼女に割り当てられているのですが、「小さな町の 小さな恋」を大事に大事に育むように歌うのが好きでたくさん聴きました。

 かつて憧れていたアイドルという職業を生業にし、恵まれた容姿を持ち、きらびやかな衣装を纏って、歌っていた彼女はキラキラしていたけれど、私にとっても他の多くのファンにとっても特別な女の子だったけれど、どこかふつうのひとだった。決して浮世離れしていない、ふつうの感覚で特別になれる素敵な女の子でした。

 そういう人だったから成し得たことが多くあるのでしょう。1フレーズの歌唱ひとつとってもそうだし、私が知らない数々のこともそうです。

 これからはふつうでふつうの女の子になるのかもしれないけれど、それでもあなたは多くの心のうちの中でずっと特別であり続けるはずです。きっと。必ず。それに、あなたの飾らない特別さは、どのような職業であろうとも消えないものだと心の底から信じられます。

 あなたの内から感じられる美しさに、わたしもふつうでいいのだとやっと思うことができる気がします。ふつうのままとくべつになれるよう、あなたを目標にしてこちらはこちらで頑張ります。

 軽やかに、生きていってください。

 金澤朋子さん、大好きです。

記録:2022年1月

迷宮歌劇『美少年探偵団』

@銀河劇場

0106夜アフタートーク有/0109昼/0109夜/0110千穐楽

 躁躁躁。

 近頃はなかなか面白い2.5次元舞台に出会えずにいる実感があったが、年が明けて1発目から最高の作品に出会えた。

 観劇後にアニメの1話を視聴した印象としては瞳島眉美のキャラクターをある程度「演劇」のストーリーテラーとして嫌味のない仕立てにしていると感じた。面白い舞台作品を観に行った観客としては満足のいく仕上がりだったが、原作ファンの感想が気になるところ。

 あまりにも良い現場だったのでBlu-rayを購入した。円盤を買うとなんと!あの解決サンバの音源が手に入る……!

 早く欲しい。みんな観て欲しいし、早く続編を制作して欲しい。

迷宮歌劇『美少年探偵団』Blu-ray - Amazon

空鉄砲

@ザ・スズナリ

0116夜/0122/0121昼(新人公演アーカイブ:蓮井佑麻 中嶋海央 浦谷賢充)

 柿喰う客の中でも殊更中屋敷法仁に愛されし男たちの玉置玲央×永島敬三×田中穂先が本多劇場で公演を行うとの情報が解禁された時点から事件の匂いがした本作。蓋を開けてみれば最高に面白いBL舞台だった。

 人と人が傷付いたり、傷つけられたり、騙しあったり、誤解し合ったり、親愛だけじゃない、言葉ではうまく説明出来ないような「クソデカ感情」ってやつで「ちゃんと」BLをやる中屋敷と、それを取り溢さず表現する男3人が、下北沢で愛し合っていた。

 私はというと、俳優の見事な肉体と台詞回しに感嘆しながら「この人(中屋敷)……本当に『熱海殺人事件』が大好きだな……!?」と思っていた。

 戯曲に登場するワードに「熱海」を連想させるものが散りばめられているだけでなく、文法が明らかに「熱海」のそれだったように思う(というか『滅多滅多』以降に濃くつか文法を感じる)。

 「熱海」には突然演者が歌ったり踊ったりするシーンがいくつかあるのだが、これは楽曲の持つストーリーを文脈に持たせることで作品の強度を上げたり、登場人物の過去や未来の情景を楽曲によって浮かび上がらせるためにある。全てを役者に言葉で語らせずとも観客が感じるものがあることによって「時短」的に事象を示すことが出来るのだ。

 『空鉄砲』のラストシーンもこの手法が使われている。そして、なおかつ選曲がBLとしての文法にも則っていて見事だった。

 この選曲は「ネタバレ」だし「本質」なので是非作品を観て、興奮して欲しい(きっとDVDが出ると思うので)。

 

 ドラマは『封刃師』第3話が凄かった。

舞台『修羅雪姫 ー復活祭50thー 修羅雪と八人の悪党』感想

 今泉佑唯復帰作として昨年に舞台化され、CBGKシブゲキ!にて上演された「修羅雪姫」が追加キャストを迎え、改編が加えられ、パワーアップして帰ってきた。

 ずーみんちゃん、紀伊國屋ホールへおかえりなさい!

 今泉さんの復帰作だからと前作を観た人も、今回の追加キャストを観てみたい人も、いつも紀伊國屋ホールでつか作品を観ている人にも是非観劇してほしい。この「修羅雪姫」は面白い!

 

 物語の舞台は日清戦争勝利に沸く日本。夫を殺され、夫殺しの濡れ衣を着せられた女が復讐を遂げる為に女囚監獄内で産んだ修羅の子 雪が現れる。雪は「修羅雪姫」を名乗り、仇を取るべく暗躍していた。仇を探す中で出会った貧乏暮らしをしながらも身を寄せ合って生きる貧民窟の人々や、反政府組織のトップ、雪を狙う暗殺者などの登場人物それぞれの思いと大きな陰謀と策略の渦に飲み込まれ、雪は運命に翻弄される。

 前回から引き続き出演している演者の素晴らしさについては、ゲネプロ記者会見で池田純矢さんが述べた「今泉佑唯は天才である」という言葉が何より端的に述べられた主演俳優の魅力であるし、彼女を支えるべく集められ見事にシブゲキでの公演を終えた実績が証明しているのでこの記事ではあえて書かないことにして、新キャストを中心に書いた。

 前回の出演者である松村龍之介さん演じた人斬り恨次の物語において与えられた役割が、今回は瀬戸利樹演じる赤羽勲と玉城裕規演じる王威龍に分けられていた印象を受けた。

 瀬戸利樹さん演じる赤羽勲は、殺し屋稼業を営む雪を追う刑事でありながら、雪と同じく家族を失った過去を持つ赤羽は時に共闘し、支え合うよう場面もある役どころだ。瀬戸さんは、今泉さんが主演を務めた舞台『あずみ〜戦国編〜』で幼馴染のうきはを演じている。柔らかな佇まいが似合うハマり役であったし、「あずみ」と同じく今泉さんと共闘する姿は当時より確実に成長していて、嬉しく思いながら観た。日替わりシーンも楽しくこなす肝の座った姿も見ることが出来た。

 対する王威龍は雪とは完全に相対する立場だ。「良心」的な部分を赤羽が全て負っている代わりに、中国から捕虜として連行されて軍の手先として闘っていた人斬り恨次の設定に、薬漬けにされており「見張りを噛み殺す」ほど凶暴な殺し狂いである設定が追加され、彼にしか演じられない役に改編されていた。人外めいた芝居や動き、そして殺陣は見応えがあった。

 人斬り恨次にも与えられていた「俺は支那人*1」という台詞。人斬り恨次は自らのルーツを唯一のアイデンティティとして心の拠り所にしており、この思いを滾らせた悲痛な叫びが人斬り恨次が発する台詞の中で最も素晴らしかった。今作では王威龍の「俺は支那人だ」に続く「日本人は皆殺しにする」が凄まじかった。雪と対峙しているシーンであるにも関わらず、自らを虐げ奴隷のように従わせる菊井大佐を睨みながらの一言は恨みの籠もった情動を感じられた。会見で「圭ちゃんの下につくのがイヤ。殴られるのが我慢ならない」とのたまった玉城が演じる王威龍ならではの表現であり、細貝圭と玉城裕規の関係性が菊井征一郎と王威龍の関係性に反映された良い芝居だった。

 玉城さんはゲスト出演したドラマ『封刃師』第3話で殺人を犯すことに取り憑かれた役を演じ、早乙女太一と渡り合い見事な殺陣を見せたことが記憶に新しいが、その殺陣を生で見られるというだけでも劇場に足を運ぶ価値がある。勿論、このスピードに充分に食らいついていた今泉佑唯も見事な殺陣だった。

 池田純矢さん演じる徳永乱水は、前作では吉田智則が演じていた役と比べると言葉に説得力があるが少々胡散臭くも感じる。自称インテリの鼻持ちならなさと確かな演説力には妙な色香を感じた。追加シーンとして『飛龍伝』の勧誘シーンの如く持論を説き、雪に揺さぶりをかけるシーンが追加されていたが、是非桂木純一郎を演じて欲しいと思ったほど魅力的だった。

 作品に「思想」を感じてとっつきにくいという声もあるようだが、あくまでも主題ではない。50周年を迎えた「古い」とも表現も出来る作品である『修羅雪姫』を届けるために現代との接続性を持たせるための手段に過ぎないため、小手先の言葉に囚われずに、是非その奥にある作品のメッセージや役者の熱い思いを感じに劇場へ来てほしいと思う。何より、「思想」なんてものは人それぞれに多様にあり、決して縛ることが出来ないことは、多くの個性的な物語の登場人物が証明していると言えるだろう。

*1:作中にある台詞のためそのまま引用しました

記録:2021年12月

SK∞ The Stage 第一部

天王洲銀河劇場

1204昼

 久しぶりに私がつまらないと感じる方向性の2.5次元舞台を観た。というか、2.5次元作品をそもそも観なくなった……?(と思っていたら年明けから怒涛の観劇数を重ねる羽目になっているのだが)

 弊ブログでは何度も書いているが、「原作そのまま」の2.5次元演劇が悪いとは考えていなくて、むしろ2.5次元作品持つ根源的な喜びはここにあるべきとも考えているのだが、わたしはここに面白さは見出せないのだ。

 特にわたしは「エスケーエイト」原作に対して、爆速の展開にこそ面白さが宿っていると考えているから、懇切丁寧に「エスケーエイト」をやろうとすると作品の持つスピードに役者の身体がついていかずもたついて見えた。

二兎社公演45『鴎外の怪談』

@東京藝術劇場シアターウエス

1205東京千穐楽

記録:2021年11月 - 感想文としては満点

 11月分で書いてます。そして、つまりこういうことです↓

舞台『あいつが上手で下手が僕で』

@かつしかシンフォニーヒルモーツァルトホール

1212夜

 1クールにつき1作品しか観られないのに大抵を謎ドラマに費やしてしまうのだが、カミシモはまさにそれで、何故か真面目に最初から最後までドラマを観たので舞台も観た。

 ドラマで1番好きだったのが湘南劇場の常連客だったので、舞台は不在で残念だった。エーステと同じく客席の我々が常連客という設定のようだったが。

 トキの人たちの文脈がわからないのでタイムライン上で盛り上がっていたその辺りの事情では盛り上がれず……鳥越裕貴の芝居が好きだなと改めて思った。情報量が多いのが楽しい。

ガラスの動物園

@シアタークリエ

0118夜

 漫画『ダブル』の『初級革命講座飛龍伝』編の1話目サブタイトルでもある『ガラスの動物園』。野田彩子はこの戯曲に多家良と友仁の何を見たのだろうか。

『初級革命講座飛龍伝』から読み解く漫画『ダブル』 - 感想文としては満点

 「速さ」に偏執していた時期だったので古典の名作戯曲をきちんと観られるのかが不安だったが、楽しめた。

 とはいえあらゆるモチーフを咀嚼できたかというとまったくそんなことはなく、不甲斐ない。暇を見つけて批評など読めたらいいな。

 『ドライブ・マイ・カー』なんかもそうだが、どうしようもないどうにもならないような男を演じる岡田将生は可愛い。

劇場版『呪術廻戦 0』

1224最速上映(バルト新宿)/1230

 初見も原作既読でも楽しめる構成力は見事。

 戦闘シーンの格好良さが突き抜けていて最高だった。MAPPA〜!ありがとう〜!

 特に好きなのは乙骨VS夏油での夏油傑の1回転2hitの蹴り。禪院真希はずっとカッコイイ。そして何と言っても、七海建人の黒閃四連!

 黒閃四連シーンの素晴らしいところは戦闘シーンとしてのアクションの格好良さだけでなくて、未曾有の呪霊テロの中で自分の手に負えない等級の呪霊と戦わざるを得ない状況に陥っていた若い術師と彼らを庇うような動きを見せた七海建人の描写が挿入されていた点にあると思う。七海建人の持つ本質的な部分が端的に描かれているだけでなく、夏油の目指す「大義」の過程にこういう状況が生まれているのだと確かに示されているからだ。好きな人の出演シーンがアニオリとして満点以上の仕上がりで嬉しかった。