感想文としては満点

演劇と言葉あそび

ミュージカル『新テニスの王子様』The Second Stage

 『新テニスの王子様』ミュージカル化第2弾。

 中学生と徳川カズヤがU-17代表上位10名であるGenius10の代表の座を賭けたシャッフルマッチに挑むストーリー。リョーマからの越前南次郎への伝聞のような形で試合毎に章立てされ、幕が上がる演出がなされている点が特徴的だった。無印テニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)とは違い、物語に「全国大会優勝」という大きな筋があるわけではなく、王子様としても各選手それぞれに目標や目的があってテニスをしているように見受けられるため、一つの演目として見ると(「テニミュ」にしては)熱量が分散されがちになってしまうわけで、この演出はテニミュにとって欠かせない試合に賭ける熱量をバラけさせない巧い方法だと感じた。

 The Second Stageを鑑賞するにあたって欠かせない視座があると思っていて、それは井澤勇貴演じる越前リョーガの在り方と種ヶ島修二を演じた秋沢健太朗の巧みさの対比だ。

 井澤勇貴本人が持つ特性にリョーガのストーリーを乗せたかのような役者とキャラクターの境目を曖昧にさせたような芝居や演出と、見事なキャラクター解釈と緻密に作り込まれた動き。対極にありながらも両者ともが素晴らしい身体性によってこれを叶えている。本作の主題であるレギュラー入れ替え戦の(少なくともGenius10としてのプライドを賭けた闘いの)外側にいるかのような態度である2人が全く違うメソッドで作品を支え、強度を上げていた。

 「本作の主題はレギュラー入れ替え戦」と前述したが、それはあくまでも『新テニスの王子様』を原作としたミュージカルとしての話で、舞台作品としてのミュージカル『新テニスの王子様』The Second Stageには別にテーマがあると考える。それは「越前家の家族愛」だ。

 特に印象的なシーンは、リョーガとリョーマが「光る打球」の特訓を重ねるシーン。このシーンでは、ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズンでの全国大会決勝前の南次郎とリョーマの滝での修行のシーンを想起させるセットが組まれている。そこでのアドリブのようにも感じる瑞々しい掛け合いにある井澤演じるリョーガの軽薄さが、「あの時に観た南次郎の血を引く者だ!」としか言えない質感で、「越前家の物語」をより際立てていた。

 ミュージカルに初登場し、井澤勇貴の力を持ってして圧倒的な立体感を得た越前リョーガリョーマとふれあう時、それを見つめる南次郎の心が動いた時、ミュージカル『新テニスの王子様』The Second Stageは単にテニス漫画の舞台化としてだけではなく、家族愛の物語としても輝き、より一層の魅力を持つ舞台作品となっていた。

ノンスタ石田マジで芝居が上手い

 みんな知ってる?ノンスタ石田はマジで芝居が上手い。

 いや私だって知ってますよ。NONSTYLEM-1グランプリ他各種賞レースのタイトルホルダーで、結成から25年経っても未だ「女子高生が選ぶ好きなお笑い芸人」にランクインするほどの人気で、世間では人気も実力も兼ね備えたお笑いコンビの芸人だと認識されているってこと。石田明は「ノンスタ井上じゃない方」「めっちゃ白い方」だっていう認識だってこと。漫才のネタも書いてるし、MCも出来て、最近だと子煩悩ブログも人気だね。YouTubeもやってる。多才か。

 違うんだよ。いや違うくはなくて、前述したどれもが事実だし私もそのようにも認識しているけれど、私はただただ役者としての石田明が好き。超好き。だってとんでもなく芝居が上手いから……。

 ノンスタ石田は芝居がめちゃくちゃ上手いってこと、世の中に知って欲しい。だから石田明の出演作について語ろうと思う。

 私が初めて演技をしている石田明を観たのは2018年2月に上演された『熱海殺人事件 CROSS OVER45』。富山で貧乏から抜け出そうと必死に出世をして上京してきた刑事で、新たな配属先の上司である木村伝兵衛部長刑事の滅茶苦茶な言動に翻弄される役どころの熊田留吉を演じていた。

 この時は正直、「上手いけどエンジンがかかるのが若干遅いな」くらいの認識だった。今思えば、ほとんど素人のような若者を含めた若手俳優たちに混ざって日替わりを盛り上げ、熱量のある演技を引き出し、バランサーとして大いに活躍していたように思う。ワガママな客です、私は。

 その後、1年後の2019年3月にも『熱海殺人事件 LAST GENERATION46』が上演され、前年と同じ熊田留吉を演じた石田明を観た。

 そして驚いた。もうね、めちゃくちゃ上手い。

 熊田留吉は木村伝兵衛の破天荒な言動に振り回されながらも「熱海殺人事件事件」を通して人として大事なものを見つめ直し、出世を目的に警視総監の娘と結婚するために捨てた田舎のユキエという女のもとへ帰り一から出直すことを決めるのだが、この決意を表面する熊田の語りは「泣ける」なんてものじゃないくらいに良いのだ。

 「夜汽車の窓に顔を映し、まだ見ぬ東京での生活を夢見て、自分は胸を高鳴らせておりました。」とつぶやく。すると、富山から上京する熊田の顔を映す窓の情景が浮かび上がり、小狡いが、努力をすることも知っていて、なにより苦労もしてきた男の小ささが愛おしく思える。観客は一気に引き込まれる。静かにひとりごちるように発せられる台詞が、ハンパない求心力を持っているのだ。


www.youtube.com

 次に私が観劇したのが『銀幕の果てに』。本作も石田明の魅力が存分に感じられる作品だった。観劇後の興奮冷めやらぬツイートを見て欲しい。公演が終わる頃にはすっかり石田明のファンとしか言えない状態になっていた。

 見よ、この褒めようを。

 石田明の凄まじい点は、実は『熱海殺人事件 LAST GENERATION46

』の千穐楽から4日後にすぐこの『銀幕の果てに』に出演していることだ。

 舞台作品は当然ながら公演前に稽古期間を要する。つまり3月の『熱海殺人事件』の公演に向けて事前に稽古を行い、3日間の大阪公演、2週間の東京公演に出演しながら並行して次回公演の稽古も行い、別演目の『銀幕の果てに』6日間の公演と大阪公演2日間に出演した。もちろん人気お笑い芸人なので合間にテレビ出演もこなす。約1ヶ月の間、フル稼働なのだ(正確には代役を立てたスペシャル公演が1公演あった)。

 (注:ツイートにもあるように『銀幕の果てに』には石田明の他に『熱海殺人事件』の出演者が4人もいる。それくらい容易いことをやっているわけではない。単に、バケモノの座組なだけである。)

 「熱海殺人事件」と『銀幕の果てに』の評価をお読みいただくと分かるかと思うが、石田明の役者として特に素晴らしいところは、特に人間くさい芝居が上手いところだ。熊田留吉に限らず演じた多くの役は「器が小さくてクズだけど良心との葛藤があり、人間くさくて、どこか憎めない人」であることが多い。そのような役をあの細い身体から絞り出されるように本心が吐露されると、もうたまらなく愛おしく思えるのだ。

 出演した『熱海殺人事件』と『銀幕の果てに』はどちらもつかこうへい作品で、声を張り上げて長台詞を喋る。長い公演になると役者が声を枯らしながら公演に挑むことが多い。ずっと喋っている。ただ、干からびそうになりながら芝居をする石田明もまた良いのだ。

 かくして3作を経てすっかり石田明の魅力に取り憑かれてしまった。

 石田明はその後、『熱海殺人事件』に2年も2021年にも出演している。ダブルキャストのため出演回はスペシャル公演や代打登板回を含めて12公演だったのだが、そのうちの10公演を観劇した。木村伝兵衛を演じた主演の味方良介とのタッグがこれで最後だと思ったというのもあるが、改めて考えると結構、かなり、好きだな……?

 石田明は芝居がマジで上手いから出演作も多いので全てを語ることは難しいため、最後にもう1作品だけ挙げさせていただきたい。それがミュージカル『衛生』〜リズム&バキューム〜。

 動画を観ていただければわかるが、この作品は古田新太が「汚いミュージカルを作りたい」と企画した、シモの話が沢山出てくる下品だがパワフルな作品だ。


www.youtube.com

 この異色の舞台においても、主演の古田新太を筆頭に、尾上右近ともさかりえなど錚々たる役者が揃う中で決して埋もれることなく輝きを放っていた。

 そしてこの作品はミュージカル。つまり、そう、歌っているのだ……!石田明はお笑いも出来て、MCも出来て、おまけに芝居も上手いと言いましたね?それに加えて、石田明は歌も歌える!!!!!

 嘘。ちょっと嘘つきました。盛りました。というか別に歌は上手くないんだけどこの作品では逆にそれが良いというか。モテなくて、どうでもいいどころか下衆な仕事をしていて、自分に自信が無くて。そんなつまらない男が好きな女性へのひたむきで密やかな想いを胸の内に秘めている様を素朴な歌声が演出していた。

 そして、そう、この役もお察しの通り石田明が得意とする「情を捨てきれないどこか憎めないクズ人間」の役!!!最高……………ずっとクズの役やってて欲しい。

 この作品に出演した経緯にはひとつエピソードがあり、石田明本人が「ミュージカルだから」と一度断ったのにも関わらず、ルミネtheよしもとの楽屋までプロデューサーと演出家の福原さんが「どうしても出てくれ」と交渉に来たという。つまり特に演劇界では既に高い評価を受けているってワケ……!最初は「口パクでもいいから」って言われていたらしく、つまりミュージカルの概念を覆してでも呼びたい俳優ってコト……!?仕方ないよな、だってめちゃくちゃ芝居が上手いから。

 他にも『相対性浮世絵』『飛龍伝2020』などの出演作を鑑賞し、今ではすっかり石田明にメロメロである。ほらね。見てこのツイート。

 というわけで、少しでも「ノンスタ石田明がマジでただただ芝居が上手い」ことを伝えるためにこの記事を書きました。どう?伝わった?

 ていうかここまで読んだら「へー、石田明ってそんなに演技が出来るのか。ちょっと気になるな。観てみようかな?」って思った人、いるんじゃない……!?いろ。いてくれ。頼むよ。

 そんな皆様に!!!おすすめの舞台があります!!!!!!

つかこうへい十三回忌追悼公演『つかこうへいLonely 13 Blues』の『蒲田行進曲完結編 銀ちゃんが逝く』!

つかこうへいLonely 13 Blues | Information | 株式会社アール・ユー・ピー

 記事内にも書いた『熱海殺人事件』、『銀幕の果てに』、そして『飛龍伝2020』でタッグを組んだ俳優 味方良介との再度のタッグ!10公演観たけどまた共演するんかい!ありがとう!

 これほど共演していると親交が深く、年の差があるにも関わらずかなり仲の良い2人みたいなのですが、実はそんな2人の念願の「蒲田」なのです。

 明も気合十分。

 これはもうね、とんでもない熱量の芝居が見られること請け合いですよ。伝説の公演になると思います。

 『蒲田行進曲』は映画にもなっているので、「タイトルは聞いたことある」「映画は観たことある」という方もいると思います。明が演じるのはヤス。銀幕のスター銀ちゃんを慕う大部屋俳優で、ひょんなことから銀ちゃんの恋人である小夏を押しつけられるところから物語は始まる。銀ちゃんの子を妊娠している小夏に好意を寄せながらも、自分を心から愛せない小夏を上手く愛せず暴力を働いたり、それでもお産の費用を稼ごうと命を危険に晒す「階段落ち」に挑む役どころ。そう、またしてもクズです……!絶対に良い。

 ていうかもう正直にいうけど石田明と味方良介を再び引っ張り出してつかこうへいの十三回忌公演やって「客席埋まりませんでした」ではあまりにも申し訳が立たない(何に)(オタク特有のよくわからない目線での責任感)ので絶対絶対チケット完売させたい。お願いだから。観て。

 面白くないものを無理矢理褒めるのが嫌いなので、これはマジで本音だけど、少なからず俳優の石田明を見続けてきた私が保証する。かならず面白いものになるので。なんなら私が初日に入るから、その感想聞いてからでもいいから、日程(7月8日〜7月18日)とチケット代だけ確保しといて。

 チケット先行始まっております!

 受付期間は5月26日~5月30日ですが、一般発売も当日券販売もきっとあるので、ギリギリでも間に合います。是非。是非!よろしくお願いします!

ふつうにとくべつに

 世界で一番好きな女の子が芸能界を引退するそうです。ただただ、元気で幸せでいてねと思います。

 彼女を思う時、彼女の体調が安定しなかった時期にはステージに立ってる姿を目に入れただけで嬉しくて嬉しくておいおいと泣いてたことをよく思い出します。同時に、他人を本気で思いやるような あの尊い感情をもう私は今後持てない気がするなあとも考えます。

 個人的な話ですが、最近職場に行くのがつらいんですよね。そんな中でも離れた人の幸せを願える余裕やそのような思いが生まれることが自分にあるのだと嬉しいです。

 Juice=Juice 1stアルバムに収録された『生まれたてのBaby Love』という楽曲の歌い出しが彼女に割り当てられているのですが、「小さな町の 小さな恋」を大事に大事に育むように歌うのが好きでたくさん聴きました。

 かつて憧れていたアイドルという職業を生業にし、恵まれた容姿を持ち、きらびやかな衣装を纏って、歌っていた彼女はキラキラしていたけれど、私にとっても他の多くのファンにとっても特別な女の子だったけれど、どこかふつうのひとだった。決して浮世離れしていない、ふつうの感覚で特別になれる素敵な女の子でした。

 そういう人だったから成し得たことが多くあるのでしょう。1フレーズの歌唱ひとつとってもそうだし、私が知らない数々のこともそうです。

 これからはふつうでふつうの女の子になるのかもしれないけれど、それでもあなたは多くの心のうちの中でずっと特別であり続けるはずです。きっと。必ず。それに、あなたの飾らない特別さは、どのような職業であろうとも消えないものだと心の底から信じられます。

 あなたの内から感じられる美しさに、わたしもふつうでいいのだとやっと思うことができる気がします。ふつうのままとくべつになれるよう、あなたを目標にしてこちらはこちらで頑張ります。

 軽やかに、生きていってください。

 金澤朋子さん、大好きです。

記録:2022年1月

迷宮歌劇『美少年探偵団』

@銀河劇場

0106夜アフタートーク有/0109昼/0109夜/0110千穐楽

 躁躁躁。

 近頃はなかなか面白い2.5次元舞台に出会えずにいる実感があったが、年が明けて1発目から最高の作品に出会えた。

 観劇後にアニメの1話を視聴した印象としては瞳島眉美のキャラクターをある程度「演劇」のストーリーテラーとして嫌味のない仕立てにしていると感じた。面白い舞台作品を観に行った観客としては満足のいく仕上がりだったが、原作ファンの感想が気になるところ。

 あまりにも良い現場だったのでBlu-rayを購入した。円盤を買うとなんと!あの解決サンバの音源が手に入る……!

 早く欲しい。みんな観て欲しいし、早く続編を制作して欲しい。

迷宮歌劇『美少年探偵団』Blu-ray - Amazon

空鉄砲

@ザ・スズナリ

0116夜/0122/0121昼(新人公演アーカイブ:蓮井佑麻 中嶋海央 浦谷賢充)

 柿喰う客の中でも殊更中屋敷法仁に愛されし男たちの玉置玲央×永島敬三×田中穂先が本多劇場で公演を行うとの情報が解禁された時点から事件の匂いがした本作。蓋を開けてみれば最高に面白いBL舞台だった。

 人と人が傷付いたり、傷つけられたり、騙しあったり、誤解し合ったり、親愛だけじゃない、言葉ではうまく説明出来ないような「クソデカ感情」ってやつで「ちゃんと」BLをやる中屋敷と、それを取り溢さず表現する男3人が、下北沢で愛し合っていた。

 私はというと、俳優の見事な肉体と台詞回しに感嘆しながら「この人(中屋敷)……本当に『熱海殺人事件』が大好きだな……!?」と思っていた。

 戯曲に登場するワードに「熱海」を連想させるものが散りばめられているだけでなく、文法が明らかに「熱海」のそれだったように思う(というか『滅多滅多』以降に濃くつか文法を感じる)。

 「熱海」には突然演者が歌ったり踊ったりするシーンがいくつかあるのだが、これは楽曲の持つストーリーを文脈に持たせることで作品の強度を上げたり、登場人物の過去や未来の情景を楽曲によって浮かび上がらせるためにある。全てを役者に言葉で語らせずとも観客が感じるものがあることによって「時短」的に事象を示すことが出来るのだ。

 『空鉄砲』のラストシーンもこの手法が使われている。そして、なおかつ選曲がBLとしての文法にも則っていて見事だった。

 この選曲は「ネタバレ」だし「本質」なので是非作品を観て、興奮して欲しい(きっとDVDが出ると思うので)。

 

 ドラマは『封刃師』第3話が凄かった。