感想文としては満点

演劇と言葉あそび

「ここではないどこかへ」の野望として GORCH BROTHERS 2.1『MUDLARKS』

 イギリス・エセックスの工業地帯で共に馬鹿をやって育ってきた17歳の幼馴染3人ウエイン(永島敬三)、チャーリー(田中穂先)、ジェイク(玉置玲央)。

 テムズ川のそばに逃げてきたウエインとチャーリーは「成し遂げた」という何かに興奮している。やがて遅れて現れたジェイクは、その何かの一部始終を目撃したようで体調を崩している。「最高」だったはずの夜が、3人の人生を大きく変えていく。ロンドンに近いながらも貧困にあえぐ人間たちが多く暮らす街での物語。

 生活に余裕がない人ほど福祉、もっと言うと社会にアクセスしづらいというのはその通りなのだろうが、ジェイクは大学へ行くほどなのだからもう少しどうにか出来なかったものかと思ってしまった。

 泥に足を取られて身動きが取れないような思いになってしまう場所が人を追い込んでしまうのかもしれないし、その気持ちはなんとなくわかる。ただ、脚本家ヴィッキー・ドノヒューが実際にエセックス在住ということで、やはりもう少し彼らが希望を見出せる展開があっても良かったのではと思わざるを得ない。

 人物の設定は良くて、力の強い者にひどく怯えるチャーリー、1人になることが何より怖いウエイン、警察をしきりに気にするジェイクの描写は、端的にそれぞれの抱える問題を表していた。

 役者は全員素晴らしく、特に玉置玲央が良かった。

 気弱ながらも努力家で賢い少年の役は玉置玲央が演じるにしては「ふつう」で、重苦しそうなブラウンのジャケットの下に玉置玲央を演劇のバケモノ玉置玲央たらしめる肉体を密かに潜ませているように、ジェイクの内には野望や欲望や悲哀が秘められている。抑圧された人間の姿が見えた。茫然とした様子で金属探知機の話をするジェイクがただひたすらに悲しくて、あの芝居には痺れた。

 しかしこの3人を揃えたならもっと彼らが生き生きと舞台で躍動する芝居が観たいなと思ったし、(先に企画が立ち上げられたのはこちらだとは承知の上で)『空鉄砲』のその先にあるものが出来たのではないかと考えてしまった。企画の立ち上げとしてプロデビュー作の戯曲を用いて若者の物語を演る事自体は悪くはないと思う。……あのタイミングでとんでもない戯曲を書いてしまった中屋敷法仁が悪いのでは? 中屋敷さんのせいにして事務所制作の作品は作り続けていって欲しい。

 ザーザーとした川の音は、興奮して血が身体を巡る音と似ていると確かに思った。ゴミ溜めのような河原と濁った川の立てる音が彼らを狂わせたのだろうか。