感想文としては満点

演劇と言葉あそび

ミューズのワンピースに見る彼女の高潔さ

2020年10月18日 「ガラスの部屋のミューズ」

 「あ、うまい。」と、テルホが言い訳じみた弁解をしはじめたときに思った。

 幼さの残る輪郭、大きめの瞳、形がよく控えめな唇に、薄い体躯。まるで男性アイドルのような永田聖一朗の芝居はなぜだかどうにも小劇場がよく似合う。ミュージカル『テニスの王子様』での明るいキャラクターがまだ記憶に新しいが、当時から内に秘めた熱が燻るような表現が上手い。劇場でみるたびに話すのが上手くなっているのが余計に「うまいな」と感じさせた。正確には「よりうまくなった」と言うべきかもしれない。

 他のキャストも皆話すのがうまく長台詞が耳に心地よい。戯曲の内容も相まって中屋敷さんが興奮している様が目に浮かぶようだった。

 

 「ガラスの部屋のミューズ」はルネという少女の存在に翻弄される男女3人の会話劇だ。彼女が暮らすマンションの一室に登場人物が出揃った時、黒いワンピースを纏ったルネをテルホ、スーリ、ルネの叔父がルネを今後「どうするか」について意見が交わされる。それぞれの主張が彼女の黒いワンピースを穢していることに誰も気付かないままに終演まで物語は暗転することもなければ好転もしない。ただそれぞれの美学を表明し無遠慮にルネにぶつけているに過ぎない3人の様子が観客たちを責めているようだった。感染症対策のため3席ずつ空けられガランとした客席にはきっとそれぞれ「愛する人」をもつ人ばかりだろうから。激昂する3人の主義主張に揺らぎながらも最後まで変容しないルネの不気味な存在感はどこか「奇子」の奇子を彷彿とさせた。

 ラストシーンのルネの姿を思い返すと彼女の白いワンピースが一層冴えた色として脳裏に蘇る。あの白さは彼女の高潔さの表れか。それともそれは私のミューズに対する願望だろうか。

 

 公演映像は10月31日までPIA LIVE STREAMで配信中。永田聖一朗の瑞々しい芝居とあけすけでグロテスクな戯曲が解け合う瞬間を是非。

「日本の劇」戯曲賞2019上演『ガラスの部屋のミューズ』