感想文としては満点

演劇と言葉あそび

THE MIX UP Vol.2「売春捜査官〜ギャランドゥ」

 “いま、義理と人情は女がやっております!”で締められる「売春捜査官」は基となった「熱海殺人事件」にも登場する木村伝兵衛、その部下、二人の元に転任してきた熊田、そして犯人大山金太郎の基本の四名に加えて愛国心を持つ事を許されなかった朝鮮人の五人を中心に物語が進む。

 「熱海殺人事件」は普遍的な差別と人の心に立ち向かう作品であるが、「売春捜査官」はある程度時代に即した作品作りがされていることは前以て知識として得ていたし、実際に観ていても感じられた。しかしこの作品の初演は1996年であることを考えると未だに足踏みしているような気になり、落ち込みも覚えた。

 「熱海殺人事件」に見られた木村伝兵衛の持つ神性は各々の登場人物に分業され、ついには誰もが神になれずに物語は幕を閉じた。この作品を観ても「熱海殺人事件」を観劇後のような晴れやかな気持ちにはなれなかった。それが何よりも悲しい。神様さえ失った私たちはどうなってしまうのだろう。