感想文としては満点

演劇と言葉あそび

【本日の現場】熱海殺人事件 CROSS OVER45

2018年3月3日昼公演 @紀伊国屋ホール

 春だー!熱海だー!味方だーーー!!!!

 というわけで観てきました、「熱海殺人事件 CROSS OVER45」。すっごく楽しみにしてた。戸塚祥太が大山金太郎、主演・演出は少年隊の錦織一清というイレギュラーなタイプの「熱海殺人事件」で熱海デビューを果たした私だが、熱海は今の私を形作るひとつのパーツであるし演劇ファンとしての自分の原点だと感じている。内容に全部共感するわけではないし、観ていてもっと楽しいと感じる作品は他にこの世に沢山あるとも思うけれども、それでも何故か好きだし自分自身の何かをリセットする為に出来れば春に一度は観たい作品。あの長台詞を上手い具合に吐いてる役者を観ているだけでスカッとするし。

 とはいえまだまだ熱海初心者なので、どこが“CROSS OVER45”かと言われると…中盤の滅茶苦茶なところか!?今日は特にスベっていたようで「この空気は…やばい!!!」と演者全員でワタワタしている姿は個人的には見ていて楽しかった。いわゆるアイドル上がりや芸人を起用していたのはこのサブタイトルがないと実現し得なかったことなのかもしれない。私がこの作品を演劇ファンとしての原点的立ち位置に据えているように、この作品を通してそういう演劇ファンが増えればいいなとぼんやり思う。演劇って面白いから。

 ブチギレてからの熊田さんはかなり木村伝兵衛と同じ熱量でいられていた気がするけれども、メインキャストはもっと木村伝兵衛に熱くぶつかればいいのにと感じた。無闇矢鱈と味方伝兵衛上げをしたいわけではないのだけれど、味方くんには既に全力でぶつかってもびくともしないくらいの役者としての度量があると感じたのでそこは残念。バチバチにやり合ってこその熱海だと思うし。しかし人の心のすれ違いの物語であるので、どこかその舞台上の実力差とリンクしているようにも見え…演劇って面白い!石田さんの関西弁に吹っ切れてからの勢いは流石に演劇に限らず漫才も含めて舞台に立ち慣れているだけある。序盤はもう圧倒的に味方!!!味方しか上手くないと言っても過言では無い!!!!!くらいの印象で、正直東京まで出てくるほどではなかったかなと思いながら観てたのだけれどみんなグングン盛り返してきて嬉しかった。

 「犯人たる犯人であれ」という大山の仕立て上げ、「役者たる役者であれ」という先輩役者味方伝兵衛(と石田留吉)からの扱きにも思えてくる。実際終わりに向かうにつれて匠海くんの大山金太郎としての精度が高まっていて、そこに役として存在することが自然過ぎるほどに自然に、金ちゃんとアイちゃんとして熱海で海を眺める2人が見えた瞬間があった。そこだけものすごく稽古を積んだのか、それぞれの中で演技がノッてくる瞬間があったのか気になるところ。匠海くん演じる金ちゃんの裁判所での「海が見たい」を本人の最高潮に持ってきた時、かなり興奮した。匠海くんの演じる金ちゃん、正直あんな田舎者いないとしか思えなくて。正確に言えばいるかもしれないけども、少なくとも離島生まれの、原宿に水筒下げて弁当持って行くほどの卑しさが滲み出るほどの貧しさは感じ取れない。気軽に車で行ける範囲にイオンがある、それこそ“三流の”最近の若者めいた田舎者にしか見えなかった。スマホでそこそこのエンターテイメントは享受出来ていそうな、所謂“ネオヤンキー”みたいな風情。アドリブだろう共演者からの「お前は聞いてるふりしてるけど聞いてない!」という叱責からもわかるように金ちゃんにはもっと泥臭くいて欲しいのに、どこか食らいつこうという姿勢は見えるものの目の前の芝居に真剣に向き合えていないような、本人が己の格好良さを持て余しているように見えたけれども「海が見たい」はすごく真に迫った台詞に感じ、とても良かった。

 今回の公演を観て改めて板の上に立っている味方くんが好きだと思った。公演終盤に差し掛かってもこの熱海で初日といくらも変わらないであろう張りのある声を出せる喉にも惚れ直すけれども、それ以上に燻る紫煙の先に見る味方良介の冷たく人を射るような目線を放つ彼が好きだ。板の上でりんと立つ、目線を配らせ、言葉を発する。それだけであのホールの静寂を支配出来る役者である彼が好き。板の上で燃えるような、そんな彼の熱い魂が好き。板に立っていると特別格好良い人だ。前述の通り私が初めて観た木村伝兵衛は錦織一清なので、彼が年を取ってもシンとした紀伊国屋ホールを板の上から掌握する彼の木村伝兵衛が観たいものだなと思う。