感想文としては満点

演劇と言葉あそび

【速水刑事観察日記】はやぴはポカリ派

 3/20ソワレ

 全体的に今までと比べると間延びしているとも言えるし、安定してきたとも言える公演だったかな(ていうか今までがカッ飛ばしすぎだった)。

 どうでもいいことだがネチネチYOを正面向いてやるようになって、微妙に長くなっていた。

 

 のち(3/22)にわかるがこの公演あたりから「鳥越先生の日替わり教室」がアドリブ実践編のフェーズに入ってきており、正真正銘ただの水を「ポカリだ」と言い張り怒られていた。攻めたね、きくぴ。

 はやぴは“五反しか畑がない百姓の出身”だそうだが、どこか上品なところがよい。その凛とした美しさは人のため迷いなく動ける正しさにある優しさから来ているのかもしれない。一事が万事、そういうところがあるのでアクエリアスじゃなくポカリなんだな。かわいい。

 

 

【速水刑事観察日記】はやぴギャル爆誕

 私の周辺では速水を演じる菊池くんがかなり評判いいのだが、私も遅ればせながら(といってもまだ初日から3日)はやぴギャルの人格を得た。今後も、より可愛くより格好良くより錯乱するはやぴに期待。今日も今日とて怒られていました。今日は大山と水野だけでなく伝兵衛までに怒られる始末。頑張れ、はやぴ…!負けるな、はやぴ…!

 まあ、実はでんでんでんすけの方が好きだったりするのだが。

 

 さて、速水刑事観察日記というタイトルをつけてはいますがこのシリーズは「モンテカルロ・イリュージョン」観劇日記としたいと考えております。15日は最前だったので細かいところもよく見えました。

 何故捜査の間俺に恨み言もひとつも言わなかったんだと問われた水野の「そう躾けられましたので」を踏まえてみると、伝兵衛が大山と再会して早々に木村を含むオリンピック選手団がオリンピック出場を拒まれた原因となる事件について責め立てる水野の表情が絶妙でした。それから大山に殺される水野(アイ子)をじっと見つめている伝兵衛がとんでもなく美しかった。

 

 基本つか作品って、難解。演ってる役者もわからないなりに模索しながら踠いていて、その様や本質だけを捉えた魂の叫びが美しいところが魅力だと考えている。しかし極限までシンプルな構成になっている「本来の」熱海殺人事件よりも様々な要素が追加されているはずの『改竄・熱海殺人事件』の「モンテカルロ・イリュージョン」は観ていてそんなに難解じゃない気がしてくる。それは中屋敷さんもまたつか作品の観客だったからなのかなと考えながら、今日は観ていた。中屋敷さんの中に作品の解釈があって、それを元に再構成されているからどこか一本筋が通っていて難しくない。もちろん持つべき熱は素晴らしい役者たちが持っていてくれるから、「熱海」の持つ良さは失われていないし、異端でありながらも案外初心者向けの「熱海」なのかもしれない。3週間かけたのではないかくらいの成長を3日でやってのけるこの座組の狂気をやっぱり色んな人に観てもらいたいな。

 


『改竄・熱海殺人事件』スポット映像

【速水刑事観察日記】期待される刑事像・速水健作

 3月14日マチネ/ソワレ

 初日から1日ぶりの観劇。1日目を離しただけなのに抜群に伸びていだからこの座組は恐ろしい。序盤の初日特有の上滑り感がなくなったから乗り物酔いするような急上昇/急降下はなくなっていたものの、それに油断しているとやはり狂った顔した水野に刺される羽目になる。2度目に観ると冒頭独白の意味がわかることとラストの狂気がより感じられることも相まって、演劇としての面白さが格段にハネたと感じた公演だった。

 

 芝居も歌も上手い菊池くんだけど、一番偉いのは「抱きしめてTONIGHT」のイントロでちゃんと見得切れるところな気がする。番ボはそういうところがえらい。

 ソワレに水を飲む伝兵衛の腕を引いてしまい水をこぼしたことを散々イジられ「拭けよ」「ああいうのは滑るから危ないんだ」「俺は霧状にしてただろう」と怒られていたが、マチネの同シーンで伝兵衛の水を欲しがるという“ボケ”に急ハンドルを切り、再び「お前後で説教だからな」と大山に怒られ、水野のキレを引き出したの、凄すぎる。そもそもモンテカルロであるとはいえ木村伝兵衛にあの態度を取れる肝っ玉よ。大山に立派に仕立て上げられる熊田(概念)、やはり面白い。

 出来れば楽までずっと怒られて欲しいな、面白いので。

 

春、狂い咲く木村伝兵衛

 例年より緊張しながら地下通路を抜けて辿り着いた紀伊國屋書店 新宿本店はいつも通りに鎮座していた。B7出口から出たのにわざわざ正面玄関に向かってポスターを視認しないと本当に公演があるのか確信を持てなかったし、チケットをもぎってもらいロビーに入ってもなお本当に上演されるのか不安で仕方がなかった。

 まずは無事に初日公演が上演されたことを祝い、沢山の感謝を述べたい。本当におめでとうございます。そしてありがとうございます!今年も大好き!

 よく観察するとロビーやその他にも(これは3年くらい後にネタにするからよろしく)精一杯踏ん張ってなんとかこの公演の幕を上げようとした人々の努力が感じられた。私は9年前の今頃の自粛ムードはほぼ体験していないと言っても過言ではないから初めての体験だった。あの時幕が上がった瞬間の感動は演劇を愛する者としていつまでも忘れられない気がするし、忘れちゃいけない気がする。私は凡人だからきっと娯楽がなくたって生きていけるけど、“不要不急の”ものに全精力を傾ける人が生きていけないような余裕のない世界では生きていけないなって改めて思う。

 

 公演は素晴らしかった。外ではあんなに自粛ムードなのに、だからこそ、紀伊國屋で美しく狂う木村伝兵衛はまさに狂い咲きの花のような禍々しさと人を惹きつける力を感じた。

 朗々と歌い上げられる歌謡曲、演歌。着実に進む時計の針。それなのに「本来の熱海」から歪んだ時系列。全てが私を狂わせてきて、いつしか水野も速水も狂っていた。些細なきっかけすら無しに据わった目を爛々と光らせていた水野の怖ろしさといったらなかった。その中に1人だけ「まともに」上手い大山がいる面白さよ。

 熱海殺人事件をジェットコースターに例えるならば、『改竄・熱海殺人事件』の「モンテカルロ・イリュージョン」はスペース・マウンテンだった。しかもいつもと走るコースが違う。急上昇のタイミングも急降下のタイミングも全く読めない。元の熱海を知っていれば知っているほどスリルと疲弊感が襲ってくるのかもしれない。熱海ファンは漏れなく体調を悪くしていたのでは。もちろん私もそのひとりだった。ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調でクライマックスが来ない熱海、あっていいんだな。

 「こんなご時世だから」とかでなく、この作品は記憶にも歴史にも残る公演になる予感がする。きっとこれからもっともっと木村伝兵衛は狂い咲いていくだろう。

 その面白さに万全の状態で観劇しても体調が悪くなること請け合いなので健康に自信のある方に限るが、この奇跡を目撃しに是非とも劇場に足を運んで欲しい。一般発売チケットも当日引き換え券も当日券もありますので。