感想文としては満点

演劇と言葉あそび

太陽の子に抱かれて

 好きな人の匂いを買った。

 etat libre d'orangeというブランドのFILS DE DIEUという香水だ。意味は「太陽の子」。販売していた NOSE SHOPのInstagramの投稿には下記のような説明書きが添えられていた。

彼は太陽を連れてくる。美と葛藤、狂喜と苦痛を判別する目を持ち、夢と解放を指し示す高貴な知恵を抱く。それは、バランスからの逸脱を促し、純真さと狡猾さ、束縛と自由という相反する感情が錯綜する。

NOSE SHOP(ノーズショップ) on Instagram: “新作の他、10種類を超える日本未上陸の香りが期間限定ラインアップ! ELOの作り出す世界のすべてを覗き見するようなインスタレーション展示をぜひ御覧ください。 8.「ジュスイザンノム | 皇帝のテストステロン」…”

 この文章を読んだ時、愛する木村伝兵衛のことを思わずにはいられなかった。これ以上に私が言葉を尽くしても彼の事を言い表せない気がするほど、彼についての記述がされていたように感じた(実際には香水の説明書きなのだが)。

 購入した日は親不知を抜歯して貧血を起こしていたから、店舗に向かうのすら躊躇いもしたのだけれど、どうしても彼に会いたくて充分に家で休みを取ってから新宿まで足を伸ばしたのだった。

 ひとたびプッシュすればオレンジを素手で割ったように瞬く間に柑橘の匂いが立ち込めた。香りがきついというわけではないのに空腹を刺激するほどの瑞々しさを感じる果汁感に木村伝兵衛の激烈性を感じた。あるいはオープニングの激しいインパクトや、彼が喋るだけで沸き上がる高揚感にも似ていた。

 「こんなに様々な香りを楽しめる香水はない」という店員の売り文句通り、時間が経つにつれて様々な匂いがする。朝纏って、数時間経つ頃にはオレンジの爽やかさはどこかへ消え、コッソリと手首に鼻を埋めて息を吸うと「智」の匂いがしたりする。私は匂いに疎いので正確にはわかりかねるのだが、これがレザーの匂いなのかもしれない。先週の金曜日にはこれまでには感じなかった甘やかな香りが立ち込め、今日はそれよりは控えめに甘いココナッツのような香りがした。会う度に異なる顔を見せてくれるところも彼に似ていると思う。

 もしかしたらもっと自分に合うような香水があるのかもしれないが、彼を身体の一部に溶け込ませて1日を過ごし、時々密やかな逢瀬を楽しむと安心する。護られているような気にさえなるのだった。だから購入してとても満足している。

 

 ところで、その私が愛する紀伊國屋ホールの神様 ・木村伝兵衛に、あなたの家でも会えるチャンスがある。

 TBSチャンネル1にて5月25日(土)午後8:30から「熱海殺人事件 LAST GENERATION46」が放送されるのだ。これを観て、演劇界に燦然と輝く太陽・木村伝兵衛に恋してみてはいかがだろうか。全てが終わった後、きっとあなたの中で何かが変わるはず。明るい気持ちで前を向けなければ、この捜査は失敗だ。

 動画だけでも、何故私が彼を神だと感じるかの一端が見えるのではないだろうか。是非。