感想文としては満点

演劇と言葉あそび

MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018~所感

 碓氷真澄としてステージ上に現れた時、ジュリアスとして声を発した瞬間、私の目に狂いはなかったなと思った。彼という役者を好きになった時のような、魂が震えるような瞬間をこれからも感じたい。感じさせてくれた!やっぱり天才の役者!テニミュを卒業してすぐに牧島くんが超満員の舞台に立って、素敵なパフォーマンスを披露して、沢山の人をハッピーにしている事が誇らしい!

  エーステそのものに対しての現時点での印象は、良くも悪くも乙女ゲームの舞台化だったということ。咲也が「A3!」というストーリーの主人公とも取れるけれども、主人公が監督(プレイヤー)である以上他のキャラクターに優劣は存在しないためにどのキャラクターにも平等に活躍の機会が与えられていて結果的に内容が薄く感じる。せめて春も夏も別公演にして、1幕でメインストーリー、2幕で劇中劇をじっくりと公演して欲しかった。

 とはいえ、ソロ曲のあるメンバー、ないメンバーはあり、上手い役者には活躍の機会が与えられて然るべきという考えなので本田礼生さん演じる三角の登場シーンに大きくリソースが割かれていたのは嬉しかったし、楽しかった。とても好きなシーン。彼は演技もダンスも上手くてグッとこの公演の水準を高めてくれている存在であり、それが夏組における斑鳩三角の立ち位置とも重なるなと思う。

 舞台全体の雰囲気はずっと楽しい。笑いに走りがちだけど、大体は小ネタの範囲内に収まっているし、原作と同じ空気感を纏っていたなと思う。

 真澄推しの原作ファンとして嬉しかった点は「ロミオとジュリアス」のエーステオリジナル公演曲が「僕らの絆」と繋げられていた点。歌詞先かなと思われるリズムの悪いオリジナル公演曲を聴いていた時はこの先どうなるのかと困惑していたけれども、“一緒に旅立つのさ〜”と咲也と真澄が歌い始めた時はゾクっとした。 

 冒頭のビロードウェイの説明を劇中劇の「長々とした説明台詞」として台本に組み込んでいたのは上手いな思った。

 千秋楽公演は正直感動した。感動したけれども、ズルいなとも思う。こんなのが毎度毎度まかり通るようでは、コンテンツとして成り立っていかないのではと考えざるを得ない。確かに面白い試みだと思う。「A3!」のメインストーリー自体も、ストーリーとして『千秋楽に客席を満席にする』ことを目標としていて、つまりひとつのゴールとして設定されているのは「千秋楽」だ。その上で「エーステ」でも『これまでの公演を踏まえてストーリーが一部千秋楽仕様に改変された千秋楽公演』をゴールに設定とした構成にすることによって「A3!」と「エーステ」のゴールが擬似的に同じ“その日”になるのは面白いと思うのだけれど、同じものを何度も何度も生身の人間が繰り返すからこそ生まれる差異の面白さを意図的に作り出すことはズルいように思える。千秋楽は特別だけど、それはあくまでやってる人間と通ってる人間にとって特別な公演なだけであって、偶然初めて千秋楽公演を観る人間にとってはいくつかあるうちのただひとつの公演に過ぎないとわたしは思うし、そうであって欲しい。どの公演であっても、それは特別な一公演であるべき。「一度きり」のハプニングを意図的に生み出すことは、「演劇的」な要素を人工的に生み出す面白い試みだけれど演劇ファンとしてノーと言いたいし、極論を言えばこれが何度もまかり通るようでは千秋楽以外が埋まらなくなる。エーステが埋まらないなんてことはないのかもしれないし、配信やDVD収録など媒体は多く用意されているけれど、舞台は基本生で観るものだから。演劇に対する愛がないなと正直残念に思う。

 凱旋からまた色々とガラッと変わりそうで、楽しみなような、憂鬱なような。

 おわり。