感想文としては満点

演劇と言葉あそび

熱海殺人事件 NEW GENERATION

2017年3月2日 @紀伊國屋ホール

 「熱海殺人事件」を観るのは約四年ぶり二度目。私はこれを観て“演劇”を知ったと思っているので、自分の中で観劇スタイルだとか演劇への想いの様相が変わってきた今のタイミングで観られたことが嬉しかった。久しぶりに観た熱海が前よりずっと楽しめたのも嬉しい。それはもちろん前の方がつまんなかったとかではなく、自分の中でのよい変化の話。

 まりおくんの金ちゃんは、前回に観た戸塚くんの金ちゃんよりも真面目で、普通で、しかし切実な青年で、特にアイ子と熱海の海にいるシーンなんかを戸塚くんはもっと愉快でピエロみたいに演じていたから驚いた。錦織戸塚版がかなり戸塚くんに寄せた特殊な設定になっていたのは知っていたけどそれを置いても“大山金太郎”から受ける印象にかなり差があったので、その差はかなり面白かった。「まりおくん」のイメージは「菊丸英二」とか「三日月宗近」なのにここでは、すごく、「普通」なんだ、みたいな面白さも含んでいると思う。戸塚金ちゃんの方が(比較すると)2.5により近い印象を受ける。失礼を承知で言うと、演技を観て、まりおくんってこんなに演技に対して真摯な俳優なんだなと驚いたしかなり好印象だったので、その普通の青年の感じがまりおくんが演るべき金ちゃんだったんだろうと思う。金ちゃんの素朴さとまりおくんの芝居への実直さが重なって見えた。多和田くんも、お笑い的な意味じゃなく、すっごく面白い俳優で、それなのに変に華があるのが更に面白みを引き立てていて、良かった。もっと板の上で活躍しているところを観たい。

 前回観たのもつかこうへい死後の、錦織一清版だったので観客側としての“NEW GENERATION”の要件は満たしていると思うんだが、だからこそ今作のどこが“NEW GENERATION”だったのかと言われると答えるのが難しい。ここはニュージェネらしいところかなと思ったのは、わかりやすさとドライさ。わかりやすさに関しては、若者でも理解しやすいものになっていたという意味で、ドライさに関しても突き詰めていけば「わかりやすさ」なのかもしれない。これまで何作か つか作品を観てきて、キーとしてあったと思うのが人間の愛が起因のどうにもならないめんどうくささ。「愛ゆえに他人に嫁を寝盗らせる」だとか「愛ゆえに自らが原爆を落としに向かう広島へ恋人を向かわせる」だとかそういう、他人が理解し得ない愛情がそこにはあった。全部錦織一清演出のものなので、錦織さんのつか作品観がそうなんじゃないのって言われたらそれまでなんだけれど、今回はそういうめんどくさい愛は感じなくて、もっと理屈があってそれが若者のドライさを表しているような気がした。

 激しい偏見・罵倒、そして下衆な下ネタはつか作品には散見されるもので、「熱海殺人事件」も例に漏れずそういうものが多い。そういうものを全て許容しようとは思わない。だけど、私は「熱海殺人事件」が好きだ。いつも心に太陽を持ちなさいという言葉に、私は愛を感じられずにはいられない。「熱海殺人事件」には、心に太陽が灯る瞬間が確かにあるから、私はこれが好きなんだろう。ラストの眩しいライトに照らされるシーン、そのライトの熱さと目も開けられない眩しさが太陽のようで、その熱で全部灼きつくして、心も身体も浄化される感覚に陥って、その後にはこの作品への好意だけが残る。この太陽っていうのは伝兵衛の、ひいてはつかこうへいの心の中にある愛なんだろうと思う。